今回ご紹介する温泉は島根県の県庁所在地、松江市にある“松江しんじ湖温泉”です。実は松江市内には複数の温泉があり、一番有名なのは玉湯町にある玉造温泉でしょう(以前に、この blog でも紹介しています)。そのほかにも八雲温泉や来待温泉(残念ながら、温泉施設の“大森の湯”は休業中)、鹿島温泉などがありますが、松江の中心部から一番近い温泉地が松江しんじ湖温泉となります。
かつて出雲国と呼ばれた島根県の東半分、その更に東寄りにある山陰地方最大の都市が松江市です。東に中海、西に宍道湖と二つの汽水湖に挟まれた地勢で、二つの湖をつなぐ大橋川によって、都市圏自体が南北二つに分断された構造を持ちます。宍道湖の西には出雲平野が広がっており、古代にはここに出雲王朝が興りました。朝鮮半島を通じて中国大陸と交流があったこの地域は紀元前後の時代には日本に於ける有力な先進地域でした。記紀と総称される古事記や日本書紀の記述を追うと、強大な権勢を誇った出雲王朝が近畿に興った大和王朝と激しく相克した歴史の姿を知ることができます。
しかし、地学的な観点からすると、この場所は斐伊川や神戸川と言った河川によって形成された沖積平野であり、治水土木技術が未発達な時代には河川の氾濫が頻発し、とても安心して人が住めたところではありませんでした。実際、発見、発掘されている出雲王朝期の遺構である荒神谷遺跡や加茂岩倉遺跡は平野部よりずっと中国山地寄りの山裾にあります。それは下った室町・戦国期も変わらず、この地を根拠地とした戦国大名の山名氏や京極氏、尼子氏が領したのもかなり山寄りとなる現在の安来市広瀬町にある月山富田城でした。平地である松江の地がこの地域に於ける中心都市として開発されたのは江戸時代に入ってこの地域の施政者となった堀尾氏や出雲松平氏によってです。治水技術が発展し、戦乱の世が治まってきたからこそ、平城である松江城が築城できたのでした。以降、この城を中心に松江は城下町として発展していくことになります。
前述の通り、松江の都市域は東西に広がる大橋川によって南北に大きく分断されています。南側には国道 9 号線や山陰自動車道の松江道路といった幹線道路が通っており、それに平行して JR 西日本の山陰本線も走っています。交通の便がよいので、昨今は専らこの南側の都市発展が顕著です。
しかし、元々は大橋川の北側の方が松江の中心とされ、国宝に指定されている松江城や、島根県庁、松江市役所などは皆大橋川の北側に所在します。今回取り上げる松江しんじ湖温泉の温泉街も松江城の南西側、その名の通り宍道湖の北東岸に沿うように広がっています。その中心は島根県内唯一の私鉄である一畑電鉄の松江しんじ湖温泉駅となります。この駅を始発駅とする北松江線は西へと延びて、隣の市である出雲市中心部の電鉄出雲市駅へつながっています。また、途中で分岐した大社線は出雲大社前駅へと至ることとなります。
湖岸沿いに並んで建つ施設はほとんどが温泉宿やホテルで、残念ながら日帰り温泉入浴を専門とするところはありません(一応、銭湯が一軒ありますが、温泉を前面に出してはいません)。しかし、宿やホテルの多くで宿泊なしの日帰り入浴サービスを提供しています。今回わたしは温泉街の東端に建つ松江ニューアーバンホテルの日帰り入浴を利用しました。

松江のツインタワー
松江ニューアーバンホテルは宍道湖と大橋川とを隔てる宍道湖大橋の北詰に所在します。建物は大きく本館と別館の二つに分かれており、それぞれ九階建て、十階建ての高層建築になっています。見た目は完全にビジネスホテルです。

松江の中心市街地にあるので、あまり広くない駐車場はみんな宿泊客専用で、日帰り入浴客は利用できません。しかし、土日祝日に限っては近くにある島根県庁や松江市役所の駐車場がおもてなし駐車場として無料で利用できます。
利用料金
日帰り入浴は別館の一階ロビーで申し込みます。利用料金は大人一人 1,100 円です( 2025 年 4 月現在)。ちょいと割高な気もしますが、ロビーの係員にお金を払うと、大浴場に入るためのカードキー(首からぶら下げるホルダー付き)とともにレンタルタオルを一枚手渡されます。レンタルタオルは大抵の温泉施設で一枚 150 円とか 200 円くらいしますから、その分を割り引けば 1,000 円以下と考えることもできます(レンタルタオルは帰りに脱衣場にある返却カゴに放り込んでいくスタイル)。
大浴場は三階にあります。エレベータで向かいます。
大浴場
エレベータを降りると、男女別に分かれた浴場には入り口にセキュリティシステムがありますから、ロビーでもらったカードキーで解除して入場します。お風呂場はシンプルにカラン & シャワーが並んだ洗い場と内湯の浴槽があるきりで、サウナだの露天風呂だのといった施設は一切ありません。シンプル。ただ、窓は大きく取られていて、ホテルの前を通る国道 431 号線や宍道湖大橋を通る車の様子を、湯に浸かったままのんびり眺めることはできます。わはは、下民どもはせかせかと働くがいい。俺様はここでゆったりまったりとさせてもらうぞ(傲慢)。
不在
本館九階にレストランがある他、別館十階には宴会場があるようです。夏になると、本館別館それぞれの屋上階でビアガーデンの営業があるとか。また、本館一階にはテナントとしてコンビニエンスストアのポプラが入居しています。

しかし、残念ながら大浴場のある別館三階には休憩スペースはあまりなく、ベンチが一つあるきりです。ドリンクの自販機も牛乳のヤツが一つあるきり。……うーむ、あまり湯上がりにまったり、って感じではありませんね。
ちなみに、温泉むすめの公式情報によれば、ここに担当の温泉むすめ、松江しんじ湖しじみのスタンドパネルがあるとのことですが、今回は別館三階の大浴場にも一階ロビーにもその姿を発見することはできませんでした。ううむ、撤去されちゃったか。松江駅の観光案内所や中浦本舗の店には残っているのかしらん。
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