ここではわたしがおよそ三十年ぶりにまたバイクに乗り始めて最初に買った原付二種スクーター、ホンダの PCX について語ります。
雌伏の時代
わたしが原付バイクに乗らなくなり、庭の隅っこで朽ちつつあったスズキ GAG を人に譲ってバイクに全く関わらなくなってから、およそ30年の月日が経過しました。その間、わたしの移動の足になっていた自家用車はバイク――二輪車ではなく、専ら四輪の自動車でした。
インテグラ(中古) |
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アコード・セダン(中古) |
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フィット |
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フィット・シャトル |
ご覧の通り、バイクではヤマハやスズキに乗っていましたが、四輪はものの見事にホンダ車ばかりです。最初の車を買うとき、ちょうど父親がホンダ車に乗っていた縁でつき合いのあったホンダ・ディーラーに相談に行き、そこからずっと同じディーラーで車を買うようになっていたのです。
再びバイクのことが気になったワケ
さて、その頃わたしはとある役所で働いていました。業務請負の派遣社員として、役所の情報処理室に勤めていたのです。業務内容は住民情報を管理しているホストコンピュータを操作するコンピュータ・オペレータでした。朝一番に役所に出勤してホストコンピュータを起動してキチンと仕事に使えるように準備し、昼間は各部署からの依頼に応じて必要な帳票を印刷し、他の人が仕事を終えた後に今日一日分のデータをバックアップして明日の仕事のために日次更新し……、と早朝出勤や夜勤をする必要がある仕事です。
とは言え何十年も運用されてきたホストコンピュータはその製品ライフサイクルを終えつつあり、ごく近いうちにデータベースサーバーとクライアント PC とで構成される PC ネットワークシステムと入れ替えることが決まっていました。そうなれば、当然専門のオペレータはお払い箱です。わたしも役所を去って、元いた民間企業に復帰することが決まっていました。
オペレータ仕事では早朝出勤や夜勤がありましたし、役所がお休みの土日の間に週次のデータバックアップや更新処理があったりしましたから、勤務時間はかなり不規則でした。早出、遅出の勤務シフトがあり、土日の休日出勤がある代わりに、平日の昼間が休みだったりしました。
派遣仕事が終わって元の会社に戻ればそんな不規則勤務とはおさらばして、完全週休二日の規則正しい 9 to 5 勤務になります。わたしは不規則な勤務シフトをこなしながら、この仕事が終わった後のことに思いを馳せました。元の会社に戻れば、土日にきちんと休みが取れる代わりに、平日の昼間が休みになることはありません。
もっとも平日の昼間が休みだと、それはそれで便利なことも少なくありませんでした。人出が多く混んでいるところでも、平日だと人か少なくて、快適だったりします。病院だのお役所だの銀行だの、むしろ平日の昼間でないと利用しにくいところと少なくありません。活用できるのは今のうちだけなのですから、普通勤務に復帰するまでに平日昼間のお休みを有効利用する方法は何かないものか……。
そこでわたしが思いついたのが「自動車学校に通うこと」だったのです。
学校に行こう!
そのときわたしが考えたのは「元の会社に復帰したときに通勤にかかる費用を減らせないか」ということでした。天気のよい日だけでもスーパーカブのような燃費のいい二輪車を利用すれば、通勤費を低減できます。さすがに年を取って若い頃のように非力な 50c.c. 原付に乗るのは辛い ( GAG に乗っていた頃の辛かったこと!)でしょうが、今なら平日昼間の空いている時間帯に自動車学校を利用することができます。自動車学校で自動二輪車の免許を手に入れれば、排気量 125c.c. 以下の原付二種バイクであれば車輌価格はそう高価ではありませんし、四輪車の自動車保険に付帯するファミリーバイク特約を利用すれば余分な保険料もかかりません。わたしは入学手続きを調べるために自動車学校のホームページにアクセスしました。
そこで分かったことは、わたしが原付バイクに乗っていた三十年前とは、ずいぶんバイクを巡る事情が変わっていることでした。かつて排気量 400c.c. 以上の大型バイクに乗るために必要な大型自動二輪免許を取得するには試験場で合格率 5% とも言われた難しい試験を突破する必要がありました。しかし、今や大型二輪免許は自動車学校で専用の教習を受ければ比較的簡単に取得できるようになっていました。また大中小の各車両区分毎に普通免許とは別にオートマチック・トランスミッション——オートマ車限定の免許が設けられており、そちらはマニュアル・トランスミッション車まで対象とする普通免許より容易に取得できるようでした。原付二種のスーパーカブに乗るなら、小型のオートマ車限定免許があればいいらしいのです。とは言え、教習費用を見ると、大型はともかく中型(排気量 400c.c. 未満)以下に限ればオートマ限定も普通免許もそう大きく金額が変わらないように見えました。そこでわたしはオートマ車に限定されない中型自動二輪免許のコースを履修することにしたのでした。
いざバイク屋へ!
自動車学校でも、さすがにアラフィフの受講生はそう多くありませんでした。若者に交じってわたしは平日休みを利用して自動車学校に足繁く通い、通ったことのある方にならお馴染み、一本橋のコースに苦しめられながらも何とか教習を終えることができました。わたしは教習を終えたその足でバイク屋に向かいました。
残念ながら、三十年前にわたしが原付バイクを買ったバイク屋はとうの昔に廃業していて、影も形もありませんでした。わたしが行ったのは、とある全国チェーンのバイクショップでした。
その店を訪れるまで、わたしはスーパーカブを買う気満々であったはずです。しかし、わたしの「原付二種のバイクを買おうと思っている」という希望を聞いた途端、バイク屋の店長が「今、原付二種を買うなら、イチオシはこれに決まりです!」と勧めてきたのは別のバイクでした。そう、原付二種バイクの絶対王者、ホンダの PCX です。十年以上に渡ってバイクの販売台数ランキングの上位にとどまり続け、後に rebel250 に破れるまでナンバーワンの座を長期間守り続けたバケモノスクーターです。かくして、またしてもわたしはバイク屋を訪れる前に決めていたはずのバイクとは違うバイクを購入してしまうのでした(懲りないヤツw)
(つづく)
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