ホンダ PCX (2)

バイク
ホンダ PCX

 30 年ぶりに再びバイクに乗り始めたわたし。そんなわたしの暮らしは少しずつ変わっていきました。それまで専らインドア派で、休みの日は自宅でアニメを観たり、ゲームをする日々だったのが、こんなに変わってしまおうとは、自分でも予想できませんでした。

PCX とは

 世界の自動二輪車業界に於けるリーディングカンパニー、ホンダが誇る、自他共に認めるナンバーワンスクーターが PCX です。生産されているのは東南アジア。タイやベトナム、カンボジアの辺りは世界最大規模のバイクマーケットの一つで、 PCX はそこで圧倒的な支持を受けています。そんな東南アジアの No.1 スクーターが日本に輸入され、これまた圧倒的な人気を得ているわけですね。東南アジアでは排気量 160c.c. (初期型は 155c.c. )のエンジンを搭載したモデルが販売されていますが、日本では法令の都合上で 125c.c. と 160c.c. 、二種類のエンジンを載せたモデルが別々に販売されています。

 わたしが購入したのは 125c.c. のエンジンを搭載したモデルでした。日本国内での法令上の分類は「第二種原動機付き自転車(原付二種)」とされます。名前は「原付」になっていますが、排気量 50c.c. の原付一種と違って交差点で二段階右折をする必要はありませんし、法定制限速度も時速 30km ではなく、 60km まで出せます。また、タンデム(二人乗り)することも許されています。他の自動車やバイクと比較して制限があるとすれば、高速道路をはじめとする自動車専用の高規格道を走行することができないくらい。……もっとも、これが後に致命的な問題になっていきます。

いざ出発!

 中型の自動二輪免許を取得し、三十年ぶりにバイクに乗ることにしたわたしは勇躍、新たに愛車となった新車の PCX に乗り込みました。バイクを買ったのと同じバイク屋で入手したヤマハブランドのジェットヘルメット(価格が安かったのよ)を被って、準備はばっちりです。颯爽と出発したわたしは……気がつくと自宅から 100km も 200km も離れた岡山市内や広島市内を走っていました。我が地元である山陰地方はド田舎であるため、 2 りんかん や NAPS 、バイクワールド、ライコランドといった全国チェーンのバイク用品店が存在しなかったからです。「バックミラーを交換してみたいから、ちょっくらパーツの値段でも見てみるか」とでも考えようものなら、問答無用で中国山地を越えて山陽側の大都市に向かわざるを得なかったのでした。 Amazon で通販もいいけれど、やっぱり店頭で実物を見比べながらお買い物したくなるのも人情ってものでしょう。

 もっとも前述の通り原付二種は高速道路を利用できないので、オール下道経由で、ですが。

 いつの間にか、わたしは仕事が休みの度に一般道経由で岡山や広島に出かけるのがふつうになっていました。バイクに乗るようになってから、あちこちの日帰り温泉施設を訪れるのが楽しみになったせいもあります。にしても、長距離を走り過ぎでした。最初は「ちょいと通勤に」って言ってただけなのに、どうしてこうなった。

「あれ? これはひょっとして、このまま原付二種の PCX を乗り続けるのではなく、高速道路が走れる、もう少し大きなバイクにとっとと買い替えた方がよくね?」

 そんな至極当たり前の結論に達するまでにそう時間はかかりませんでした。かくしてわたしは PCX を新車で買ってからわずか半年で別のバイクへと乗り換えてゆくこととなるのです。

最後のご奉公

 因みに、別のバイクへの買い換えを決心した後、わたしは PCX と最後の冒険に出かけることとなります。原付二種の PCX でないと通れない道を走るためです。

 それは広島県尾道市と愛媛県今治市とを結ぶ本四連絡橋の一つ、通称しまなみ海道でした。

 三つある本四連絡橋ルートのうち、しまなみ海道にだけ存在するものがあります。それは自転車・原付バイク・歩行者のみが利用可能なサイクリングロードでした。三つの本四連絡橋に共通して設置されているのは自動車専用の高速道路だけです。実際、明石・鳴門ルートは自動車でしか通ることができません。

 しかし、児島・坂出ルート、通称瀬戸大橋には自動車高速道路に鉄道――瀬戸大橋線が併設されており、鉄道を使って通ることができます。

 そして尾道・今治ルート、しまなみ海道には自動車高速道路に併せてサイクリングロードが整備されており、原付バイク(一種/二種)や自転車はもちろん、徒歩で通ることすらできるのでした。しかも、サイクリングロードは自動車の高速道路に比較して、はるかにリーズナブルな費用で利用できるのです(六つの橋合わせて合計たったの 500 円)。

しまなみ海道のサイクリングロード

 買い替える新しいバイクの準備ができるまでの間に、わたしは PCX に乗って尾道市に向かいました。例によって下道を使ってですが、今回の旅に限っては仕方のないことです。むしろたった半年とは言えお世話になった PCX と別れを惜しむにはよい機会でした。

 しまなみ海道のルート上にある六つの橋の利用料金はそれぞれ現金で支払うことが可能ですが、地元の観光案内所で複数枚が一綴りになったチケットを買えば 50 円や 100 円と言った小銭をチャラチャラさせずに済むので、素直に案内所のある尾道駅に寄ります。

 そして、向島、因島、生口島、大三島、伯方島、大島とルート上にある島々を順番に巡っていきます。自動車に乗って高速道路を通れば島々の遠景をざっと眺めるだけですが、サイクリングロードだと地元の小さな漁港のそばを通ったりして、ゆったりと島の風情を楽しむことができます。途中に何か所か道の駅があるので、立ち寄って休憩することだってできます。伯方・大島大橋に至っては橋上のサイクリングロード横に専用のエレベータがあって、近くの無人島、見近島へ降りてキャンプすることすら可能なのです(さすがに私は寄りませんでしたが)。

漁港の風景
ばかでかい橋と漁港
漁港に停まっていたバイクたち
原付に限らず、色んなバイクがいました。

 ゆったりと瀬戸内の島々の雰囲気を味わって、わたしは四国、愛媛県の今治市へと辿り着きました。原付二種バイクでしまなみ海道を走破するミッションは無事完了です。他では味わえない体験に大満足でした。次に心配するのは帰りです。帰路もそのまま同じ道を辿ればいいのですけれど、わたしは行きと帰りとが同じ道なのは嫌な人なのですよねー。

 なので、国道 196 号線を南下して 国道 11 号線に合流し、東へ向かいます。西条市、新居浜市、四国中央市を通って香川県に入り、観音寺市、三豊市、善通寺市、丸亀市、坂出市と辿って、香川県の県庁所在地、高松市へと至ります。香川県と岡山県の間には本四連絡橋の一つ、瀬戸大橋が通っていますが、ここにあるのは自動車高速道路と JR 瀬戸大橋線のみ。原付二種が通れるルートはないのです。

 わたしが選んだのは香川・高松港と岡山・宇野港とを結ぶ定期フェリーなのでした。これなら原付二種のスクーターも利用できます。岡山まで戻って来れば、そこから先の中国山地越えは既に何度も通った見知った道でした。こうして 30 年ぶりの愛車、 PCX との最後の旅は大団円を迎えたのでした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました